26. マイクロバイオーム:菌株特異的なプライマー・プローブ設計

2021.3.22 小川

『はじめに』

ヒトの体内には、目に見えない菌類などの微生物が多数存在しています。この微生物の集団は微生物叢(マイクロバイオーム)と呼ばれます。マイクロバイオームを対象とした研究は、1960年代から国内外で活発に推進され、ヒトと微生物集団は共生関係であることが次々と明らかになっていきました。
 現在、マイクロバイオームは企業レベルでも研究されるようになりました。身体にいい影響がある菌株を培養し、添加物や錠剤として摂取し腸内環境を改善する「腸活」も研究成果の一つです。一般的に目的の菌種(菌株よりも上のカテゴリ)やウイルスを定量する方法としてリアルタイムPCR法が用いられます。しかしながら、菌株の定量はプライマー・プローブ設計の難しさから行われてきませんでした。当社では、NGS解析手法を取り入れ、菌株レベルでも定量できるプライマー・プローブ設計を行うことができます。その設計方法について、簡単に紹介させていただきます。

『ゲノム領域を用いた菌株特異的な領域の探索』

一般的な細菌叢解析は、菌類の16SrRNA領域を対象に行います。rRNAは、タンパク質合成に関わる分子であるため、進化速度が遅く、種レベルで高い相同性を示すことが知られています。しかしながら、16SrRNA領域では菌株レベルの違いが僅かで、菌株を分類することができません。そのため、菌株レベルの分類を行うためには、ゲノム領域を利用する必要があります。例えば、ビフィズス菌を16SrRNA領域で分類した場合の系統樹例とビフィズス菌の B. pseudolongumに属する菌株をゲノム領域で分類した場合の系統樹例は下記の図のようになります。


図1. 16SrRNA領域とゲノム領域で分類した場合の系統樹例


ある菌株AをリアルタイムPCR法を用いて定量するためには、菌株Aの特異的な領域にプライマー・プローブを設計する必要があります。そのためには、菌株Aのゲノム領域と比較用の別の菌株のゲノム領域が必要になります。例えば、ビフィズス菌の1種であるBB-12菌株の特異的領域を探索するために、ATCC 25527やDSM 10140などの菌株を比較対象として利用します。これらをNGS解析手法であるマッピング技術を利用してゲノム比較することで、BB-12の特異的領域を複数見つけることができます。見つかった特異的領域は、プライマー・プローブ設計候補領域として利用します。

『ProbeQuestの実行』

 ProbeQuest(PQ)は、当社が開発したプライマー・プローブ設計ソフトです。本ソフトは、複数の設計候補領域に対してプライマー・プローブを設計することができます。また、相同性の高い領域のフィルタリングやTm値、オリゴ長など細かいパラメータ設定ができ、条件に合ったプライマー・プローブ候補を複数出力します。これにより、効率的に菌株特異的なプライマー・プローブ設計を行うことができます。

『設計結果のバリデーション』

 PQにより設計されたプライマーは、プライマー増幅検証ツールを利用してin silico上で増幅検証を行います。 増幅検証は、設計対象となる菌株だけではなく、比較用に用いた菌株が混合された条件でも行います。また、ヒトのマイクロバイオームに関連するゲノム情報を収集しているHMP(Human Microbiome Project)に登録されている数百種類の菌種に対しても増幅検証を行うことで、設計結果の精度を向上させます。

菌株特異的なプライマー・プローブ設計の設計フローは、下記の図のようになります。

図2. 菌株特異的なプライマー・プローブ設計の設計フロー


『最後に』

本コラムを読んでいただき、ありがとうございました。菌株の定量に困っている方は、お気軽にお問い合わせください。

<参考資料>