20.ゲノム情報解析と個人情報保護

橘(情報セキュリティスペシャリスト)

『はじめに』

研究者の方々や、当社のようなゲノム情報を扱う業者にとって、「ゲノム情報は【個人情報】として法規制の対象となるのか」は注目すべき点です。

平成27年9月に、改正個人情報保護法が公布されました。それを受けて、厚生労働省「ゲノム情報を用いた医療等の実用化推進タスクフォース」から、平成28年1月22日に「改正個人情報保護法におけるゲノムデータ等の取扱いについて」意見取りまとめが公開されました。
原文は、厚生労働省:ゲノム情報を用いた医療等の実用化推進タスクフォースのWebサイトから参照いただけます。

その中で、ゲノムデータ・情報に対する解釈についての記述がありましたのでご紹介します。

【主旨】
 ・ゲノムデータ(塩基配列情報)そのものは、「個人情報」である。
 ・ゲノムデータに医学的なアノテーションを付与した「ゲノム情報」は、「要配慮個人情報」(旧:機微情報)となり得る。

『個人情報保護法』

平成15年5月に「個人情報の保護に関する法律」(通称:個人情報保護法。以下「現行法」といいます)が公布され、平成17年4月に全面施行されました。
この法律は、「生存する個人に関する情報」「特定の個人を識別することができるもの」「他の情報と容易に照合することができるもの」を【個人情報】と定義し、この保護に関するものです。
原文は個人情報保護委員会:個人情報保護法について > 法令・ガイドライン等のWebサイトに記載されています。

『改正個人情報保護法』

平成27年9月に、改正個人情報保護法(正式名称:個人情報の保護に関する法律及び行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律の一部を改正する法律 / 以下「改正法」といいます)が成立・公布されました。2年以内に全面施行される予定です。

『改正のポイント』

今回の改正ポイントは5点ほどありますが、そのうちの大きな改正ポイント
【(1)「個人情報」の定義の明確化】
に焦点を当ててみましょう。

現行法では、次のとおり定義されています。
第 2 条
「個人情報」とは、生存する個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)をいう。

改正法では、次のとおりです。
第 2 条
この法律において「個人情報」とは、生存する個人に関する情報であって、次の各号のいずれかに該当するものをいう。

   一 「 当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等文書、図画若しくは電磁的記録(電磁的方式(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式をいう。次項第二号において同じ。)で作られる記録をいう。第十二条第二項において同じ。)に記載され、若しくは記録され、又は音声、動作その他の方法を用いて表された一切の事項(個人識別符号を除く。)をいう。以下同じ。)により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)

  二 個人識別符号が含まれるもの

定義がより詳しくなりました。その上で、「二 個人識別符号が含まれるもの」が追加されています。
「個人識別符号」の定義は次のとおりです。
改正法第 2 条
(略)

この法律において「個人識別符号」とは、次の各号のいずれかに該当する文字、番号、記号その他の符号のうち、政令で定めるものをいう。

   一 特定の個人の身体の一部の特徴を電子計算機の用に供するために変換した文字、番号、記号その他の符号であって、当該特定の個人を識別することができるもの

   二 個人に提供される役務の利用若しくは個人に販売される商品の購入に関し割り当てられ、又は個人に発行されるカードその他の書類に記載され、若しくは電磁的方式により記録された文字、番号、記号その他の符号であって、その利用者若しくは購入者又は発行を受ける者ごとに異なるものとなるように割り当てられ、又は記載され、若しくは記録されることにより、特定の利用者若しくは購入者又は発行を受ける者を識別することができるもの

「個人識別符号」≒「マイナンバーのように、個人を識別する番号」と認識されている方も多いようです。
しかし、個人のDNA配列情報も【特定の個人の身体の一部の特徴を電子計算機の用に供するために変換した文字、番号、記号その他の符号】に当てはまるように思えます。

また、現行法で「機微情報」とされていたものは「要配慮個人情報」として、定義がより明確になっています。
(定義)
改正法第 2 条

この法律において「要配慮個人情報」とは、 本人の人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴、犯罪により害を被った事実その他本人に対する不当な差別、偏見その他の不利益が生じないようにその取扱いに特に配慮を要するものとして政令で定める記述等が含まれる個人情報をいう。

『ゲノムデータ・情報への適用』

これを踏まえ、 厚生労働省「ゲノム情報を用いた医療等の実用化推進タスクフォース」から、平成28年1月22日に「改正個人情報保護法におけるゲノムデータ等の取扱いについて」意見取りまとめが公開されました。
その中での、ゲノムデータ・情報に対する解釈についての記述は次のとおりです。

ゲノムデータ: 塩基配列を文字列で表記したもの
ゲノム情報:塩基配列に解釈を加えて意味を有するもの

個人識別符号

・「ゲノムデータ」は、社会通念上、「個人識別符号」に該当するものと考えるのが妥当。
・ゲノムデータの個人識別性は、多様であり、科学技術の進展等により変化し得る。
・具体的範囲は、個人情報保護委員会が、海外の動向や科学的観点から、解釈を示していくことが求められる。

要配慮個人情報

単一遺伝子疾患、疾患へのかかりやすさ、治療薬の選択に関するものなど、「ゲノムデータ」に解釈を付加し、医学的意味合いを持った「ゲノム情報」は、配慮を要すべき情報に該当する場合がある。
法律上明記された「病歴」等の解釈と整合を図りつつ配慮を要すべき情報として位置づけられるべき。



上記より、次が示されたことになります。
・ゲノムデータそのものは、「個人識別符号」である。すなわち、「個人情報」であり、「要配慮個人情報」ではない。
・ゲノムデータに医学的なアノテーションを付与した「ゲノム情報」は、「要配慮個人情報」となりうる。

『それでは、この「個人情報」「要配慮個人情報」を、利用者・保有者はどのように取り扱えばよいのだろうか』という疑問がわくところです。

その答えのひとつとして、現在、「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」等の見直し・「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイドライン」の見直しが進められており、今年度(平成28年度)中に改正案が提示される予定です。
今後の情報更新をお待ちください。