2021.10.19 久世・佐藤
はじめに
10x Genomics社を筆頭にシングルセル解析技術が飛躍的に発展しています。
シングルセル解析は、細胞1つ1つに対して遺伝子発現解析が可能であり、従来のバルク解析では不可能だった個々の細胞の違いを明らかにすることが期待できます。シングルセル解析により、腫瘍細胞内の相互作用やクローン化プロセス、また、現在世界的に流行しているCOVID-19感染後の免疫機能など、新規知見が日々報告されています。
本コラムでは、一般的なシングルセル解析の流れと公開されているCOVID-19のデータを用いた解析例について紹介します。
シングルセル解析の流れ
初めに細胞の単離を行い、細胞ごとに固有のラベルを付加したcDNAを合成したのち、シークエンスを行います。
その後、一次解析として、シークエンスデータのマッピング、発現カウントを行います。続く二次解析では、遺伝子発現データに基づいて細胞のクラスター分析を行います。またマーカー遺伝子の発現量に基づき、各クラスターの細胞種を同定します。
さらに細胞種の構成比や遺伝子発現量を確認することで、細胞集団内・間の差異を確認します。一次解析では10x Genomics社がサポートする「Cell Ranger」、二次解析では統計解析ソフトRのパッケージ「Seurat」が広く使用されています。高次解析では、二次解析で得られた結果を用いてGO解析やパスウェイ解析を行い、詳細を確認していきます。
Fig.1 解析ステップごとの解析内容及び主な解析ツール
COVID-19解析例
論文*1で公開されているCOVID-19患者(Case)と健常者(Ctrl)、各2サンプルずつの遺伝子発現データを用いて、シングルセル解析の二次解析を実施しました。解析ツールは、Rのパッケージ「Seurat」*2を利用しました。
初めに、Case・Ctrlを合わせたクラスター分析及び細胞種のアノテーション付けを行いました(Fig. 2 A)。続いて、Case・Ctrl間の細胞種の存在比を比較したところ、CaseではMemory CD4 Tの割合が上昇し、NK ・ DC ・CD16 Monocyteの割合が減少していることが確認されました(Fig. 2 B)。
さらに、変化がみられたMemory CD4 Tを含むリンパ球集団(T細胞・NK細胞)に対して再度クラスター分析とアノテーション付けを行ったところNK細胞が2種類のサブセットを構成していることが確認できました(Fig. 2 C)。
最後に、NK細胞のみを抽出し、Ctrlと比較してCaseで発現変動している遺伝子を確認しました(Fig. 2 D)。論文では、これらの解析を13サンプル(Case6、Ctrl7)で行い、COVID-19患者は、NK細胞の細胞障害性成熟に関わる遺伝子が健常者と差があると結論付けています。
Fig.2 COVID-19患者のシングルセル解析例
- (A) 細胞全体のクラスター。UMAP法を用いた次元圧縮により細胞を分類。細胞特異的マーカー遺伝子の発現量に基づきアノテーション付けを実施。
- (B) 細胞存在比の箱ひげ図。
- (C) (B) を含むリンパ集団のみのクラスター。
- (D) NK細胞集団の遺伝子発現量のヒートマップ図。
- A single-cell atlas of the peripheral immune response in patients with severe COVID-19
https://www.nature.com/articles/s41591-020-0944-y - https://satijalab.org/seurat/
最後に
今回、シングルセル解析の流れと解析例を紹介しました。シングルセル解析は、他のNGS解析と違い、GUIツールが普及しておらず、コマンドラインでの解析が一般的です。また、クラスター分析の解釈やアノテーション付けなどは経験則に依るところがあります。
当社では、免疫系や薬の奏功・非奏功、クローン進化解析など多数実績がございます。また、上記以外の解析につきましても、参考とする論文をご提供いただく事で、論文記載の解析手法に沿った解析を検討することが可能です。
ご興味のある方、解析でお困りの方はぜひお問い合わせください。