生物学
ありふれた疾患共通変異仮説 (common disease common variant hypothesis)
『ありふれた疾患で、それが遺伝と関係している場合は、その原因突然変異は家系が異なっていても共通のものが多いであろう』という予測から成る仮説です。 病気を起こす原因突然変異が共通の祖先遺伝子に由来するのであれば、その突然変異が起きた染色体の近傍のハプロタイプが現在も残っていて 原因遺伝子座と連鎖不平衡を形成していると考えられます。連鎖不平衡解析の前提となる仮説です。
遺伝子多型
遺伝子を構成しているDNA塩基配列の個体差のことです。一般的に集団の1%以上の頻度であるものが多型と定義されます 。この塩基の違いによって生物の個体表現型に多型が生じます。
遺伝的距離
2つの座位間で起きる交差の回数の期待値と定義されます。単位は、M(モルガン)。1モルガンは1回の減数分裂において1回の交差が期待できる距離として定義されます。 この単位は確率的概念なので、1Mの距離の間に必ず1回交差が起きるのではないことに注意が必要となります。距離が離れれば交差回数は比例的に増えるので、 理論的にはいくらでも大きな遺伝的距離を仮定できます。従って、遺伝的距離はゼロから無限大です
イントロン
DNA配列内の遺伝情報を持たない部分の配列のことです。介在配列とも呼ばれます。イントロン部分はRNAに転写された後、スプライシングの過程で切り落とされます。 イントロンは全てが無駄な配列というわけではなく、スプライシングや発現制御に関わる可能性も示唆されています
エキソン
DNA配列内の遺伝情報を持つ部分の配列です。真核生物ではタンパク質をコードする領域が分断された形でDNA中に存在する場合が多く、 RNAに転写された後で情報を持った部分だけが酵素により切り出しと結合を受け、mRNAが完成します。
組換え
親とは異なるパターンの遺伝子の組合せが出来る現象のことです。減数分裂の際に相同染色体上で配列の交差が生じDNAの組換えが起きた配偶子が出来ると、 次世代では親とは異なるパターンの遺伝子の組合せが出来ます。相同染色体にある2つのローカスのアレルにおいて、奇数回交差が起きたとします。この場合、それぞれのアレルが 違う染色体上に移り、パターンが変わるので組換えが起きたことになります。それに対し、交差が起きても偶数回の場合には、結果的にパターンが変化しなかったことになりますので、 組換えが起こったことにはなりません。
常染色体
性染色体以外の染色体のことです。遺伝の際に規則正しい対合および分裂の行動を取ります。
DNAマーカー
生物のDNA塩基配列上の特定部位に存在する、個体の違いを表す目印のことです。遺伝子多型解析で用いられるのは主にSNP、マイクロサテライト、 VNTR、RFLPです。この4つには次のような特徴があります。
SNP | ゲノム上に300万~1000万箇所あり、判定が容易であるため現在広く使われているマーカー。 |
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マイクロサテライト | 2~4塩基程度の繰り返し配列の繰り返し数が個人間で異なる。多対立遺伝子性である。 |
VNTR | 数十塩基の繰り返し配列の繰り返し数が個人間で異なる。 |
RFLP | 制限酵素で切断されるサイトの塩基の違いにより、切断フラグメントの長さから多型解析方法。1980年代には遺伝子多型解析の主流だった。 |
現在、最もよく使われているDNAマーカーはSNPとマイクロサテライトです。
突然変異
メンデルの分離の法則や遺伝的組換えによらない遺伝形質の変化のことです。集団内において1%以下の変化は突然変異とみなされます。 DNA配列の複製時エラーによる自然突然変異と、物理的化学的作用源による誘発性突然変異があります。突然変異の大部分は生存に有害なものであるとされますが、 表現効果の小さいものや中立なものは生物進化の原動力と言われています。
biallelic
二対立遺伝子。1つの遺伝子座位に存在しうる対立遺伝子が2つである場合のことを指します。
表現型
与えられた環境下における遺伝子の働きによって作られる生物の形質のことです。
ピリミジン
DNAのデオキシリボース及び、RNAのリボースの1’位に結合する塩基、チミン・シトシン・ウラシルの基本構造です。 ピリミジン塩基とプリン塩基が水素結合を形成することによりDNAは二重構造を維持します。
プリン
アデニン・グアニンの基本構造です。また、NAD・FAD・ATPなど補酵素の構成成分でもあります。
プロモーター
遺伝子発現の制御を行う調節遺伝子の一種です。タンパク質をコードしない領域であり、RNAポリメラーゼが結合し、オペロンの転写を開始する部分です。 プロモーターのコア領域にはRNAポリメラーゼ複合体が結合するための配列があり、調節領域にはその転写調節に関わる配列が存在します。
メンデルの法則
優劣の法則・分離の法則・独立の法則からなる遺伝の基本法則です。
優劣の法則 | 遺伝形質には優性のものと劣性のものがあり、両方の形質が存在すると優性が劣性を覆い隠してしまい、表現型では優性形質しか現れないように見える。 |
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分離の法則 | 遺伝形質は互いに混ざり合うことが無く、配偶子形成の際には1つの遺伝形質しか含まれない。そのため劣性形質も、 表現型としては現れなくても消失しておらず世代を重ねれば現れる。 |
独立の法則 | 対立遺伝子が異なる染色体上に存在する時、それぞれの対立遺伝子は独立して分配される。 |
ただし例外も多く存在します。連鎖、伴性遺伝、複対立遺伝子、ポリジーン遺伝は独立の法則の例外にあたります。分離の法則は一般的に成り立ちます。 対立遺伝子が完全に優性・劣性を取る場合ばかりではないので、優劣の法則は除外されることもあります。
連鎖
同一染色体上に存在する二つの遺伝子座の対立遺伝子を考える時、この二つの対立遺伝子の物理的距離が近ければ物理的に繋がって遺伝する可能性が高いと言えます。 この状態のことを連鎖といいます。ただし、組換えが起こる可能性があるので、同一染色体上にあれば必ず連鎖するというわけではありません。
連鎖平衡
遺伝子の連鎖がある状態において、対立遺伝子頻度の積がハプロタイプ頻度に等しい状態のことを指します。つまり、 連鎖している遺伝子間には関連が無い状態にあるということです。
統計学
棄却
前提となる仮説を採択しないこと。意見や考えを棄てるということです。
危険率
有意水準と同義。
帰無仮説
統計的仮説検定でその当否を検定しようとする仮説です。検定する者がその成立に疑問をもっている仮説で、無に帰する意図を持って立てた仮説なのでこう呼ばれます。
クロス分割表
2つの項目について調べたデータを同時にまとめた表のことです。項目の内容が2つ×2つの場合を2×2分割表といい、 この場合には簡略化したχ2統計量計算やフィッシャーの正確確率を算出することが出来ます。
検定
統計的仮説検定のことです。
自由度
独立に動くことが出来る変数の個数のことです。例えば、2×2分割表で周辺度数が固定の場合は、1つのセルの値を決めると、 自動的にその他のセルに入る値も決定するので自由度は1となります。
周辺度数
クロス分割表の行セル・列セルそれぞれの合計値のことです。
第1種の過誤
統計的仮説検定における判断ミスの一つです。帰無仮説が正しいのに帰無仮説を棄却してしまう誤りのことです。 この第1種の過誤を犯す確率を有意水準(確率)と呼びます。これに対して帰無仮説が誤りなのにこれを採択してしまう誤りを第2種の過誤といいます。
対数尤度
最尤推定を行う際に計算を行いやすくするために、尤度の自然対数を取ったものです。
対立仮説
検定を行う者が支持したい仮説を、帰無仮説に対して対立仮説と呼びます。統計的仮説検定ではこの仮説を採択することが目的となります。
統計的仮説検定
実験や調査を行って集められた観測結果をもとにある主張が正しいかを統計的に判断する手法の一つです。 基本の考え方は「ある仮定のもとで起こりにくいことが起きた場合は、その仮定を棄てる」ということです。
- 母集団のある特性について何らかの予測を得る〔対立仮説:主張したい説〕
- 仮説を設定する〔帰無仮説:否定したい説〕
- 検定で用いる統計量を決めてその分布を選択し、検定する際の判断基準(確率αの棄却域)を設定する
- 標本を抽出し統計量を計算し、その判断基準に照らして仮説の採否を決める
- 統計量が棄却域に入れば有意水準αで仮説(帰無仮説)を棄却(対立仮説を採択)し、統計量が棄却域に入らなければ帰無仮説を棄てない
帰無仮説を棄てたほうが良いと確率的に説得することにより、対立仮説の正しさを示します。
排反事象
ある事象に対して反対の事象のこと。2つの事象A、Bが同時に起こらない時、A、Bは互いに排反事象です。
非復元抽出
母集団から抜き取った要素を元に戻さずに要素の抽出を繰り返す方法です。
復元抽出法
母集団から要素を抜き取った後、一度抜き取った要素を元に戻して再び要素の抽出を繰り返す方法です。
分散
データの散らばり具合を示す統計値です。データと平均値の差を2乗して合計しデータ数で割ったもので、分布の広がりの程度・散布度を示す数値です。 分散の正の平方根を標準偏差といい、分布の広がり具合を示します。