医療・バイオ・介護 疾走バイオベンチャー 第2部バイオインフォマティクス5 ダイナコム SNP解析を効率化

日経産業新聞

医療・バイオ・介護
疾走バイオベンチャー 第2部バイオインフォマティクス5
ダイナコム SNP解析を効率化

「病気の原因となる遺伝子を特定する解析作業を大幅に短縮し、研究が飛躍的に進むことが期待できる」。東京大学医科学研究所の井ノ上逸朗客員助教授が太鼓判を押すのはダイナコム(千葉県茂原市、藤宮仁社長)が8月に発売したソフト「スニップアライズ」。遺伝子の微妙な個人差、SNP(一塩基多型)と疾病の関連を解析する。

井ノ上助教授の研究テーマは高血圧や糖尿病などの病気にかかった人と健康な人のSNPを比べ、疾病の原因となる遺伝子を特定すること。疾病との関連をより特定しやすい、同じ染色体上の複数のSNPの組み合わせである「ハプロタイプ」の推定を進める。そのためにはSNPの数百通りもの組み合わせについて、1つ1つ検証する必要がある。解析には膨大な量の計算が必要だ。

今年五月に発表した高血圧の原因となるSNPを特定する研究には約2年間を費やした。スニップアライズを使えばこれを「2-3カ月に短縮できる」(井ノ上助教授)。今後の研究は大幅にスピードアップされる見込みだ。

SNPと疾病の関連を解析するソフトは大学の研究室などが開発してホームページ上などで公開しているものもあった。しかし、使い勝手が悪く、20個程度のSNPを解析するのに半日程度かかっていたという。

スニップアライズは30個のSNPの解析を約40分で完了することが可能。出身地域などの情報を入力して、特定の集団の傾向などをより絞り込んで算出することもできるという。

国内だけでなく、2003年3月には海外での販売を始める計画。マニュアルの英訳作業を進めているが、すでに韓国やフランスの研究機関から打診があるという。

「当社の強みは通信とライフサイエンス双方の専門家が揃(そろ)っていること」と藤宮社長は胸を張る。藤宮社長は日立デバイスエンジニアリングの出身で、通信部門で情報処理技術を研究していた。一方、28人いる社員のうち25人(弊社訂正:15人の誤り)は生命科学の修士課程を修了している。取引先である大学などの研究者と専門用語を駆使しながら細かい内容まで打ち合わせ、商品に反映することができるという。

藤宮社長がダイナコムを設立したのは95年。出向していた日立ソフトからの異動を命じられたのがきっかけだった。「遺伝子の塩基配列の中から同じようなパターンを探し出すことはノイズに埋もれた信号を抽出する作業に似ている」(藤宮社長)といい、遺伝子解析に通信分野で培った情報処理技術を応用した。

これまでに大量の遺伝子データから必要な情報を効率的に抽出・管理するソフト「ダイナクラスト」を開発。DNAチップの設計支援ソフト「プレートナビゲータ」などを販売するなど実績を積み重ねてきた。

事業拡大への夢はソフトだけにとどまらない。将来は創薬事業にも参入する意向だ。現在の取引先は大学などの研究機関が中心だが、「大手ソフトメーカーと競争して製薬会社との共同研究を勝ち取るためには、独自の技術開発が不可欠」(藤宮社長)と考えるからだ。

新薬開発の鍵を握るSNP解析に欠かせないスニップアライズは1度に解析できるSNPの数を現在の30個から来年までに100個まで増やす計画。「ほかの追随を許さない」(藤宮社長)技術を確立し、飛躍へのテコにする考えだ。(小国由美子)

《 会社概要 》
▽設 立 1995年1月
▽資本金 5000万円
▽主な株主 藤宮仁社長ら
▽売上高 2億2000万円 (2002年6月期)
▽目標売上高 5億円 (2004年6月期)