企業最前線 ITとバイオ技術を融合し研究者をフルサポート

MANAGEMENT SQUARE 2002年4月号
ちばぎん総合研究所
より

企業最前線
ITとバイオ技術を融合し研究者をフルサポート 株式会社ダイナコム

バイオ関連企業は数多く誕生しているが、その中でも異彩を放っているのが、茂原市に拠点を構える(株)ダイナコム。国内有数の頭脳集団が全国の研究機関のサポート役に徹し、現場に密着したシステムの提供を行っている。通信技術とバイオ分野に精通した強みを生かし、海外への展開も射程圏にとらえつつある。

情報提供からソフト開発へ
IT(インフォメーション・テクノロジー)とバイオ技術の融合-7年前の創業時、ダイナコムの藤宮仁社長が取り組もうと考えたのは、時代の最先端をいくテーマだった。

藤宮社長は日立グループの通信部門に勤務していた28歳のときにバイオ分野の将来性を確信し、バイオ関連事業部に移籍を志願した。若き日に通信とバイオの両方を実体験したことが、同社設立の発端となっている。

同社の事業の中心は、バイオインフォマティクス(生命情報学)関連のシステム開発と、設立初年度からスタートしたインターネット情報提供サービス「BIOWEB」である。バイオ研究に関する新製品や求人情報、学会やセミナーなどの案内を無料で提供しており、ウェブ上の情報を電子メールで配信するサービスには現在およそ7000人が登録している。

ここ数年こそベンチャー企業に出資する動きが盛んになってきたが、「わが社の設立当初は評価のしようがなかったのではないか」と藤宮社長は苦笑する。

資金的な制約もあったため、システム開発を中心としたビジネス展開は難しかった。そこで、オリジナルのウェブ情報で研究者をサポートし、まずは会社の知名度を上げる戦略をとったのである。その狙いどおり、「BIOWEB」は今や全国の研究者の間では不可欠な存在となっている。

現場との接点でユーザーを開拓
同社は社員26人の半数以上が生命科学分野の修士課程修了者という、文字どおりの頭脳集団である。顧客である研究者と同等レベルのバイオ知識を持った人間が、研究者との綿密な打ち合わせを繰り返してシステムを開発しているという点が、他社にない強みだ。

その背景には、藤宮社長自身の体験がある。

日立ソフト勤務時代に藤宮社長が開発した代表作が、バイオイメージアナライザという、FBIのDNA鑑定に初めて採用された装置である。世界初の製品で、バージョンアップされながら現在はアメリカの州警察の大半、カナダ、メキシコなどでも採用されている。

この装置をはじめとして藤宮社長が12年間の在籍中に行った社内での研究発表会の回数は8回に及ぶ。スーパーコンピュータ並みの処理速度で類似した遺伝子を探す計算処理を行うLSIの開発など、数々の実績を上げたが、藤宮社長はこの研究発表会の場で研究費を獲得するようにアピールしてきた。また、開発の進捗に合わせ外部の研究者たちと積極的に接触した。研究者との雑談を通して、実用化に向けての改善点や新たなニーズをつかむためだ。

また、大学時代の修士課程の教官が、民間企業の研究機関出身の人物だったことから「研究を進めるためには自分で研究費を獲得するくらいのつもりでないとできない」という指導を受けた。各種財団への補助金・助成金の申請書を何通も書いて研究費用を調達したというが、このころ身に付けた資金調達のノウハウが現在にも生かされているようだ。

開発と研究機能の強化を目ざす
ダイナコムの製品第1号は、およそ1年をかけてつくり出したパッケージソフト「DYNACLUST」である。東大・医科学研究所の教授に機能面などのアドバイスを受けながら開発を進めた成果だ。

バイオの研究では、人から採ったDNAを断片化し、機械でその配列を読み取る。長いDNAを切断し断片の配列を求めるため、重複するものなど、データ自体が膨大かつ多様で、その分析は非常な手間がかかる。「DYNACLUST」は、例えばつながる断片を見つけだし、あるいは重複するものは重ねるなど、多様な処理を自動的に行うことができるシステムである。さらに、データベースを探すことで、世界初の遺伝子を確認することもできる。

また、ヒトゲノムの情報がほぼ把握されたことを受け、これを元に複数の人を比較するソフトも開発した。ヒトゲノムには、個人ごとにDNAが数100個に1個の割合で異なる特性がある。それらの情報と病気の有無に関する情報を組み合わせてデータとしてまとめれば、特定のスニップ(一塩基多型=遺伝情報)が病気に関係していることがわかり、研究が必要な遺伝子を特定することができる。例えば、血糖値や血圧の高い人がいた場合、健常者のデータと比較することで絞り込みが可能となるのである。

さらに同社が開発した実験用プレートの情報管理システム「Plate Navigator」はDNAの種類別の保管状況を管理することができる。いわば、DNAの在庫管理システムというわけだ。

同社は今後、研究所の機能も持つ考えで、現在同社の社員はガン研究所や筑波のプロジェクトチーム、医科学研究所にも常駐体制をとっている。ITとバイオの技術を組み合わせた技術は定評があり、国の研究機関から遺伝子に関する研究を請け負うほどだ。国際的にも評価は高く、韓国の研究機関から技術強力の要請を受けるなど、同社の活躍の場は国境を越えつつある。

会社概要
設立 1995(平成7)年
代表者 藤宮 仁
所在地 茂原市茂原643
資本金 3000万円
売上高 2億2000万 (2002年6月期見込)
従業員数 26人
事業内容 バイオ関連ソフトの開発・ウェブ情報提供サービスほか

(千葉銀行取引店 茂原南支店)