座談会 「ポストゲノム時代のけん引役 -花開くバイオインダストリー」

2001/08/24

座談会 ポストゲノム時代のけん引役 花開くバイオインダストリー

座談会主席者(順不同)
経済産業省製造産業局生物化学産業課長 塚本 芳昭氏
かずさDNA研究所長   大石 道夫氏
理化学研究所横浜研究所ゲノム科学総合研究センター所長   和田 昭允氏
プレシジョン・システム・サイエンス社長   田島 秀二氏
ダイナコム社長   藤宮 仁氏

司会 日刊工業新聞社執行役員 首都圏本部長 岡村 信克

ヒトゲノム(全遺伝情報)がほぼ解読できたことを受け、DNA医療すなわちゲノム創薬の開発を含めた本格的なポストゲノム時代を迎えた。21世紀の産業で最もインパクトを持ち、大きな可能性を秘めているバイオインダストリー。医療や食糧問題といった人間生活に決定的な影響を与えるだけあって、し烈な国際競争が始まった。そこで日刊工業新聞社は、経済産業省幹部をはじめ、日本を代表する研究機関やベンチャー企業のトップに集まっていただき、「花開くバイオインダストリー その課題と展望・首都圏元気企業」と題して、わが国におけるバイオ産業の課題や将来像を語っていただいた。
新産業の創造や雇用に期待
日本の強みをどう伸ばすか
-塚本氏


塚本 芳昭氏
塚本 芳昭氏
 ―ヒトゲノムの全体像がほぼ解明されてから、1年余りが経過しました。今後は、遺伝子のわずかな差を利用した「ゲノム創薬」などの開発が進展すると期待されています。はじめに塚本さんから、最近のバイオテクノロジー動向についての話をお願いします。

塚本 バイオテクノロジーに関しては、景気が少し下降局面にある中で、ITとともに、新しい産業創造や雇用という面で非常に期待されています。バイオの最近の動きを見ますと、約30億個の塩基、いわゆるヒトゲノムがほぼ解読されましたが、2003年ぐらいまでには精密解読が終了すると言われています。
全体の動きとしては、ゲノムの次に遺伝子部分のcDNA(相補的DNA)、その機能解析とか、たんぱく質、さらには細胞レベルでの理解が進展し、いろいろな応用が進むことになるでしょう。そのような個々のテクノロジーについて実用化を目指して研究開発を強化していかなければならない状況にあると思います。


ゲノム解読で医療が変わる
画期的な政策転換の実行を
 大石氏

大石道夫氏
大石道夫氏
―大石さんは、人類共通の財産であるヒトゲノムが解明された意義について、どのように見ていますか。

大石 ほぼ全容がわかったというところで、細かいところまできちんとするまでは、あと2年ぐらいはかかりそうです。それでも、1―2年のうちに「人間とは何であるか」という手がかりを得るための第一情報が入手できることは、人類の歴史上、画期的なことだと思います。
同時に新しい医療や新しい医学、そういうものをこれから築き上げるきっかけとなります。少なくとも、我々が今まで非常に難しいと思われていた健康上の問題、それを解明するカギがゲノムに隠されているはずです。今後は、たんぱく質がどういう機能を持つかといったメカニズムが解明されていくでしょう。


 ―和田さんは、DNAとたんぱく質の分子物理的性質と、その生物機能との相関の実験的解析などで、さまざまな業績を上げられていますが、ヒトゲノム解読について、どのような感想をお持ちですか。

 和田 約50年前にワトソンとクリックがDNAを発見したことが大きな契機ですが、それまで生物学というのは暗黙知、みんなが暗黙のうちに理解していたような知識が非常に多かったんですね。それが定量的な形式知に変わってきた。
そうなると、データの計測、解釈、抽出、解釈というものが非常に発達しました。データ解析とデータ抽出という二つの分野が互いに刺激する格好で、膨大なデータ量が得られるようになってきました。
そこでデータを生むための計測、解析、意味抽出といったツールが重要視されるようになりました。物理的なツール、数学的なツール、情報学的なツールが相次いで生まれました。その結果、生物学はかつてと異なり、定量的な精密科学に変わったわけです。これによって予想確度が格段に向上しました。
さらに対象となるものが複雑な場合、その中にあるデータを抽出、解析することで将来を予測するようになりました。天気予報が好例です。現在、注目されているゲノム創薬とか、治療もこの概念を使った走りと言えます。


田島 秀二氏
田島 秀二氏
 ―田島さんは昨年以降、急速な進歩を遂げているバイオテクノロジーについてどう思われますか。

田島 私は25年前、米国のアボットという会社の日本法人と組んで、血液の免疫検査をやってました。現在は、ドイツのロシュと取り組んでいます。当時は腫瘍(しゅよう)マーカー、ホルモンとか、新しい感染症の抗体検査がでてきて、急速に業界が伸びていました。そのころ私は、勤めていた会社で社内ベンチャー的な形を取り、免疫システムを開発していました。
次々と新技術が出て、百花繚乱(りょうらん)といった状態でした。その中で整合性があり、実用的な技術が生き延びるという事実を見てきました。現在、我々が取り組んでいる分子生物学の領域は、25年前と同じような状況にあると思います。本当は数多くの技術の中から、一つの技術を追求したいのですが、正直言ってどうなっていくのかわかりません。とにかく、研究開発を始めてみないとしかたがない。我々も基礎的な知識はありませんので、勉強していくしかありません。その一方で、今までの経験を何らか形で結合し、日本発の技術を出していきたいですね。

 ―藤宮さんはいかがですか。

藤宮 仁氏
藤宮 仁氏
藤宮 私は通信分野の出身です。音声認識の技術開発に携わってきましたが、20代のころ、バイオがこれから伸びそうだと考えました。そこで15年ほど前になりますが、バイオ関連に転属させてもらいました。勤めていた会社では、蛍光式のイメージアナライザーを開発して、米連邦捜査局(FBI)のDNA鑑定装置に採用されました。
音声認識の分野では、ある似たものを高速で計算させる「ダイナミックプログラミング」というアルゴリズムがあります。IBMの研究者が開発した統計的、確率的なモデルを採用した計算アルゴリズムもこの分野から生まれたものです。
私もたまたま通信分野の技術者として、統計的で確率的なモデルを考案して何かを推定するという仕事にタッチしてきました。7―8年前にはダイナミックプログラミングを使って高精度なホモロジー検索をするLSIの製品化にもかかわりました。独立から6年が経過しましたが、今までの経験を生かし統計的なアルゴリズムに重点をかけて社員教育を行っています。社員数27人のうち生命科学の修士課程修了クラス以上が半数以上を占めています。
統計的な知識を活用してDNA、オートシーケンサーからあがってくるものを分類、そこから遺伝子のわずかな差である「SNPs(一塩基変異多型)」候補を絞り込んだり、SNPsと疾患との関係を解析できるような新しい手法を考えています。

―続いて塚本さんに日米欧の遺伝子関連の研究比較と、わが国の技術・産業政策などについてのお話をお願いします。バイオ産業を国家戦略としている米国と比べて、日本は立ち遅れているという指摘がありますが。

塚本 日本で出願されている遺伝子工学の特許を見ますと、日本人が出願するより、はるかに多い特許が米国人ほかから出願されています。おそらく一時は遺伝子工学の分野で、米国人が出している特許の方が日本人が出している特許よりも多かった。現在は、ほぼ拮抗(きっこう)していると思います。
一方で、米国の特許の出願動向を見ると、日本人が占めるシェアというのはごくわずかで、おそらく10%以下でしょう。バイオテクノロジー全般のベースとなる特許の状況からみて、ある意味で米国が先行しているといった状況です。
ただ、日本には日本の強みもあると思います。例えば、微生物や植物とか、きき類などがそうです。cDNA解析も強いと言われています。このような強みをどう伸ばしていくかを工夫する必要があります。
特に米国は、ライフサイエンス全般にわたって膨大な予算を投入しています。さらに大統領のイニシアチブによって、具体的な研究開発が進められている。ヒトゲノム計画であり、最近のたんぱくに焦点を当てた構造ゲノムイニシアチブ、微生物や植物関係もそうです。1999年にはバイオ製品やバイオエネルギーが米国社会に受け入れられるように、大統領令という形でイニシアチブを取った。
対する日本はオーダーメード医療・新薬開発、再生医療、機能性食品、環境耐性作物の開発を目指したミレニアムプロジェクトが各省連携の下で始まっています。加えて経済産業省は、資源、エネルギー、生産プロセス、環境修復などに重点的なバイオの適用を考えています。 バイオ研究を見ると、さまざまなデータベースがつくられています。これが国際貢献の一環として、日本が一定の役割を果たしていく部分とも言えます。同時に競争力の強化を含めて、どうやって新産業、雇用に結びつけていくかも考えないといけない。そのためには発明をパテントとして保護し、産業界が活用しやすくすることが必要だと思います。


和田 昭充氏
和田 昭充氏
 ―和田さん、国家百年の大計と言いますが、ポストゲノム戦略における日本の取るべきスタンスについてお話を願います。

和田 まず、生命情報科学の立ち遅れについては、大学側も多いに反省すべきだと思っております。例えば、大学組織が非常に縦割りで、教養学部とは言いながら生命、非生命の学問の関係を教えてこなかった。このような点を考え直さなければ、今後も遅れたままになる可能性があります。
また、日本はGNPの1割国家とか指摘されていますが、少なくとも科学技術のあらゆる面で3割を目指すべきだと思います。そうすれば、どこかの部分で必ずトップになれます。米国と物量の戦いをしては間違いですから、全体のバランスを考えないと国家百年の大計にはなりません。

―大石さん、ご自身が所長を務める「かずさDNA研究所」は、大規模な研究施設を中心にバイオのパワーを結集していますね。そこで今後、欧米に対抗していくには、どうすればいいのでしょう。

大石 日本がどうしてバイオやITで遅れたかというと、両方とも新しいサイエンス、新しい技術なんですね。日本はどうしても新しいことを導入する段階となると、非常に憶病かつ慎重になってしまいます。予算でも既存分野に対して気配り、目配りが前にでて、どうしても過度に配慮してしまいます。思い切った転換ができないため、どうしても遅れてしまうのですね。
では、どうしたらいいのかとなると、和田先生や塚本さんがおっしゃたようにこれからの日本にとって、バイオ分野で何が向いているかという戦略が必要ではないかと思います。
日本と米国の関係をみると、表面的には国際協力と言ってますが、現実は国益と国益がぶつかり合う競争があるわけです。これを戦争に例えると、我々には参謀本部が必要だと思います。戦略家が攻め方とか、資源の投入を考えていかないといけません。
私は戦略的に見て、この分野に行けとは言いませんが、日本には優れている分野も数多くあります。伝統的な発酵工業、固定化酵母、エレクトロニクス技術などがそうです。そういう優れたものをうまく使い、何かできないでしょうか。
例えば、DNA解析装置の開発では、エレクトロニクスとかロボティックス、オプティックスを動員すれば、米国製の装置に比べて安く、正確で速い分析ができるでしょう。米国の友人に聞くと、バイオに関して彼らは日本に勝ったと思っていますが、技術を総動員されると怖い存在になると言っています。
もう一つ、心強いものがあります。昔と比べて日本の基礎生物学、分子生物学のレベルは格段に向上 しました。やはり基礎的な学問のレベルが高くなければ、いい考えがあっても応用できません。そういう意味で私は楽観していませんし、悲観もしていません。
ただ、今のようなやり方では厳しいと思います。大学制度を含めた画期的な政策転換があれば、まだチャンスがあります。ただ、それほど時間が残っていません。最近の学力低下や少子化という問題を考えると、相当な決断が必要ではないでしょうか。

―これまでのお話で、バイオ研究における厳しい状況がわかりました。田島さんはベンチャーの立場として、どう感じていますか。

田島 システム企業の立場から言うと、やや追い風と言える話だったと見ています。つまり日本は得意分野があるから、その分野を通じてゲノム領域の切り口を探すということです。
大規模な研究所を建てたら、機械や試薬がすべて外国製だったという話もあります。しかし、よく見つめてみると、欧米より優れている部分もたくさんあるわけだから、得意分野を生かすことによって、追い風になるということです。
実際、当社も独ロシュなどと組み、さまざまな研究開発に取り組んでいます。だが、先方から見れば、当社は聞いたことがない会社のはずです。でも、パートナーとして採用していただいたからには、何か合理的な判断基準があったと思います。

 ―藤宮さんはいかがですか。

藤宮 私は、これからはバイオが伸びると同時に、通信だって技術は生きるはずだという思いがありました。ところが、通信の原理を見極める能力を持っている人というのは、なぜかしら通信分野にしか行かないんです。育った環境から離れ、別の分野に生かすという発想がほとんどありません。
今、バイオインフォマティクス(生命情報工学)関連の求人募集をかけると、大学院クラスの人が応募してきます。だが、情報処理や数学分野出身の人は、バイオは重要と思う一方で、そういう分野で頑張ろうという人が少ないですね。
今後は、確実に生命科学が身近な存在となるはずです。ですから、研究開発に必要なツールをベンチャーが立ち上げ、経済産業省にもご支援いただき、普及する体制を築いていくことが重要だと思います。

―先程、バイオの産業化について指摘がありましたが、経済産業省はどのように考えていますか。

塚本 バイオの産業化を考える場合、その特質をよく考える必要があります。すなわちバイオの場合、基礎研究の成果が即応用に直結するというケースが多いということです。そのため、大学や公的研究機関の役割が極めて大きくなる。すでに米国では、バイオ関連特許の5割以上が大学および公的研究機関により出願されています。
だからこそ、大学、公的研究機関における基礎研究のポテンシャルアップ、システム上の工夫が必要です。特に国立大学は、いまだに大きな制約があります。例えば、共同研究しても半分が国有特許になってしまい、企業にとっては極めて使いづらいという話もあります。基礎研究の成果にしても、パテント化して保護するという体制の整備が非常に遅れています。この辺りを取り組まないと、予算を投入しても発展しません。

―大石さん、ゲノム創薬を含む医療分野の展望をお話下さい。

大石 私はヒトゲノムの解読がほぼ終了したということは、各分野にいろいろなインパクトをもたらすと言いました。中でも医療や医学が画期的に変わっていくことになるでしょう。
遺伝病を例にしてみましょう。従来の遺伝病における概念は、ある遺伝子が不幸にも生まれつきおかしくなっている。その遺伝子を持った人は一生、影響を受けるというものでした。
ところが最近、病気の原因というのは、生まれつき持っているDNAの違いにより引き起こすことがわかってきました。つまり、遺伝子の一部がおかしくなったため、少し血圧が高いとか、糖尿の傾向にあるいう違いが出てきた。そこで次の段階として、その遺伝情報をもとに、医薬品の開発や病気予防に役立てようというわけですね。
人間の遺伝子は三万個余りと言われています。我々が普段よく耳にするような病気も数%、数百個の遺伝子が関係していると言われています。しかも、遺伝病というのは1個の遺伝子がおかしくなるのではなく、いろいろな遺伝子の変化が絡まり合って病気になると考えられています
私はゲノム創薬、DNA治療の時代が早く訪れると思っています。成人病に関係する遺伝子の8割はこの5―10年以内に見つかるでしょう。あと15年、20年たつと、主な病気の遺伝的背景がわかり、治療法や特効薬の開発が進んでいると見ています。

―和田さんはどう思いますか。

和田 現在、我々はある1個の分子の構造や情報の解析作業に取り組んでいます。遺伝子ネットワークとの関連性が解明されつつありますが、それでも競争に打ち勝つかどうかわからない。非常に危機感を感じています。
それとは別に、ゲノム創薬、治療を考えると、我々はデータという中間素材の生産者という立場なのです。それを受け取り、加工して製品を売ってくれないと、いくら頑張っても中間素材が山積みになるだけでどうにもなりません。
そういった意味で、日本のバイオ産業が強化されない限り、時間がたつにつれて、我々の中間素材も急速に価値を落としてしまいます。どうしても公表せざるを得なくなる。海外の大手製薬会社からの打診も多いですから、もっと日本の製薬会社などにも頑張っていただきたいと思います。


解析データのの活用がカギ
特許に関するプロが必要
 和田氏

 ―田島さん、技術開発や製品についての展望は。

田島 当社は診断の際、SNPsなどの遺伝子ネットワークをできるだけリアルタイムで認識できるシステムをつくりたいと考えています。そこで当社は欧米の技術のまねをするのではなく、磁性ビーズを使った新しいDNA検出技術や、新概念のDNAチップ技術を開発し、SNP解析に利用できる今までにない提案をしています。
というのも、米国ではさまざまな特許を押さえていますが、少し見方を変えることで対抗できることを示したかった。ただ、海外ではすごい勢いで、遺伝因子を見つけるといった研究が行われていますから、そういう動向を情報として取り入れることも重要です。
欧米では、因子あるいは配列の研究が非常に進んでいますから、今から特許で戦おうとしてもちょっと難しいですね。しかし、あくまでも基礎なので、もう一段、実用化に向けた工夫が必要です。
最近は技術移転機関(TLO)の活用、公的研究機関や国立大学の法人化が議論され、先生方の意識も変わりつつあります。具体的に特許や利益配分をどうするかという問題も現実化しつつあります。いずれにしろ、意識を持った先生方と産学官連携を進め、海外の情報を取り入れる体系ができれば面白いと思います。

―藤宮さん、特許や産学官連携についての考えをお願いします。

藤宮 特許に関しては日本の研究機関の先生方からよく質問を受けます。DNA配列そのものをまとめて出願したい、これは特許になりそうかといった相談があります。ただ、申請書を仕上げて出願するとか、そういうやり方を知らない研究者の方が多いですね。
私は1―2日で申請書を書いて出願できます。急いでいる場合は先に出願しておいて、後で弁理士に頼めば仕様変更も可能です。研究機関の先生方もご自分で出願できるようになれば、自らのアイデアをうまく保全しながら研究開発を進められると思います。
また、企業や公的機関との連携については、総合的な産学官交流、TLOが円滑に動くための政策が もっとたくさんあればいいなという気がします。

―塚本さん、バイオ研究にとって追い風とも言える公的機関の独立行政法人化についてお聞きします。

塚本 独立行政法人化についてですが、対象は公的な研究機関だけではなく、大学も含まれます。国立というステータスを持っているため、何かと縛られることが多いですね。それが独立行政法人化の議論によって、新しい方向に向かおうとしています。
きちんとした法人格を持ち、できる限り制約をなくすことで、本格的な研究ができると思います。組織的にもいろいろな連携がやりやすくなる。ただ、それには事前に組織としてのトレーニング、経験を積んでいく必要があるでしょう。
また、昔はあまりプロパテントという考えが世界全体になかった。むしろ成果をオープンパブリックすることによって、いろいろな企業がそれを活用する時代でした。おそらく歴史的にはプロパテント、アンチパテントの時代を繰り返してきたと思いますが、今はずっとプロパテントの状態で続いています。そうなると、昔ながらのアカデミックな部分だけをやっていればいいというわけにはいかなくなった。きちんとパテントもケアして産業化しやすい環境をつくることが必要です。独立行政法人化はこうした面でもプラスに働くと思います。

―和田さん、ゲノムを中核としたバイオインダストリーが発展する中、生命倫理、情報管理、情報公開といった問題もありますね。

和田 非常に難しい問題ですね。これは一研究センター、一大学で片付けられる問題ではなく、国家レベルで慎重に考えなければならない。まず市民とバイオの専門家との会話が必要です。これができておらず、大きな誤解が生じる。問題の一端は大学の教官にあると思いますが、市民に対して懇切丁寧に説明しなければいけません。
一方で、遺伝子組み換え食品の開発を進めなかった場合、いったい人類の将来はどうなるのかといった問題があります。やはり市民とバイオ研究者、技術者、バイオコミュニティーがまじめな議論を交わすべきです。これにより、初めて将来における食糧問題の危険の方が大きいといった会話ができるわけです。


DNA検査の新技術を開発
海外情報を取り入れる体系を
 田島氏

 ―大石さんはいかがですか。特に遺伝子組み換え食品についてのお考えは。

大石 これだけ生物学の内容が進歩したのにもかかわらず、専門知識を持っている人は非常に限られています。そこで一般の人が、もう少しDNAや生命がどういうものかを理解していただきたいと思っています。米国のハーバード大学やマサチューセッツ工科大学(MIT)などでは文系、理系を問わず分子生物学が必須となっています。なぜかというと、学生の将来にかかわる大事な問題を教えないで、まともな市民が生まれるはずもないというコンセプトなんですね。
さて、遺伝子組み換え食品の安全性が指摘されていますが、食べても一向に構いません。うちの研究員に聞くと、仮に普通の食品と比べて値段が倍だとしても遺伝子組み換え食品を食べると言います。理由は農薬が少なく、テストされているからです。
そもそも誤解の原因は最初の遺伝子組み換え作物(GMO)が消費者より生産者の利益を重視してつくられたからでした。消費者が反発したのも当然です。最近、コレステロール値を下げる、栄養のバランスが取れている、飽和脂肪酸が少ないといった健康に良い農産物ができていますが、このことを始めから言っていれば消費者にも選択の余地があったと思います。

―塚本さん、政府のバイオインダストリーに対する取り組みを教えて下さい。

塚本 日本では現在、バイオベンチャーが220社ぐらいあります。対する米国は1300社、欧州もほぼ同数が事業展開しています。日本における事業化は大手企業の主導となっており、まだ多くのベンチャーが起業する状況にありません。
そこで経済産業省では、来年にかけて大学発ベンチャーの育成を重点施策に位置づけています。おそらく、バイオも大きな柱の一つになることと思います。いずれにしろ、大学発ベンチャーを育成するための体制をどうするかということが各方面で議論されていくものと思います。 ―田島さん、藤宮さんにベンチャー経営者としての意気込みをうかがいます。
田島 どんな産業も同じだと思いますが、一つのテクノロジー、知識だけでは成り立たないと思います。だからどうしてもアライアンスが必要条件になります。今年2月にナスダック・ジャパンに公開したこともあり、一定の資金を得ることができました。そこで米国に2社、欧州に1社の全額出資子会社を7月に設立しました。現地に顧客や研究関係者がいる関係もあって、一緒に新事業を始めたいと思い、少し無理しましたがスタートしました。
子会社設立の理由としては、国内のマーケットが小さいからです。当社は社員数50人の会社ですが、それでも国内だけでは生活できません。だから、公開後にやらなけばいけないと考えたのは、世界に道を開くということでした。
日本のバイオ業界を見ていると、海外から人や技術が湯水のごとく押し寄せてくるにもかかわらず、国内にとどまっている。私はベンチャー魂を発揮して、この流れを変える一助になればと考えています。
藤宮 バイオインフォマティクスと言っても、分野ごとに狙いや方向が違います。我々はどちらかと言うとソフトですから、消費者向けの製品ではなく、解析システムというツールをつくるわけです。
しかし、バイオ市場はまだ研究費で成り立っている部分が大きいですね。そんな中で、ソフトウエア開発をやっていると、外注経費というのが非常に少ないことに気づきます。つまり、研究員を増員するなどで対処し、内部にしか経費が流れない。人海戦術でデータ処理するより、ソフトウエア関連の人間が身近に入り込めれば、研究も飛躍的に伸びることでしょう。
そのためにもバイオインフォマティクスにおいて、ソフト会社が参入しやすいような仕組み、研究費の構造を変えていく必要があると思います。

―和田さん、最後に何か一言あればどうぞ。

和田 基礎研究の成果がそのまま製品となる時代は終わりました。技術や製品が複雑になった結果、クロスライセンス、サブマリン特許が増えています。ただ、クロスライセンスを取る場合、それに見合うものを提供しないといけない。
そこで24時間特許に関することを考えるプロが必要なのですが、本当のプロが日本にはいないですね。国もこの重要な問題点を考えてもらいたいと思います。

 ―本日は長時間にわたりありがとうございました。
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